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映画 Culture

【映画】 『ドストエフスキーと愛に生きる』 翻訳家という人生 レビュー

2016/11/03

こんにちは。Magiyamaです。

本日、渋谷UPLINKにて映画『ドストエフスキーと愛に生きる』を見てきました。
かなり良かったです。

どんな映画?

84歳で翻訳家のスヴェトラーナ・ガイヤーさんにスポットを当てたドキュメンタリー映画です。彼女は、ドストエフスキーの作品5冊をロシア語からドイツ語で翻訳しました。もともと彼女は、1923年にウクライナのキエフで生まれ、のちにドイツ語を学び、戦時中のナチス占領下では通訳者として活躍していました。そして戦後は、主に翻訳業と大学の講師を仕事として行うようになったそうです。

彼女は教養深く、知的でユーモアのある方です。
そして、文学が好きで、大切な父がスターリン政権下の監獄生活が原因で亡くなった時は、隣家の本をむさぼるように読んだそうです。スヴェトラーナさんにとって文学こそが、心の支えだったのでしょう。

そんな彼女が発する言葉はどれも、胸に響いてくるものばかりでした。いくつか心に残った言葉があるので紹介したいと思います。    *コメントは僕の解釈です。ここからはネタバレかも

心に残った言葉

文章(text)と織物(textile)は同じ

彼女は、文章(テキスト)と織物(テキスタイル)は同じ語源であると言っています。「織物を洗濯した後は繊維の方向性がバラバラになってしまう。その織物をアイロンで正しい方向に戻してあげる。それは言葉が織なっている文学でも同じことだ」と話していました。彼女にとっての翻訳は、アイロンがけのようなものであり、精神体験を通して一度体内に入ってきて混沌になっているものを翻訳を通して正しく整えるのだろうと思いました。

翻訳は鼻を上げよ

翻訳をしていると、つい左から右へ順番に訳していってしまう人が多いそうです。しかし、『翻訳』とはそうではなく、全体を意識すること大事であると言っています。作品全体をからだに内面化させることで初めて、それを構成するパーツが理解できるようになる。そのためにも、鼻を上げて全体を見なさいとスヴェトラーナさんは話しています。“虫の目、鳥の目”という言葉があるように、部分だけでなく全体を俯瞰することが翻訳にとっても大事なのだと学びました。

内なる声に従いなさい。例え、世間の常識に逆らうことになったとしても

彼女は、童話を子どものために作ってあげたそうですが、その中で“言葉を話す魚”が登場するそうです。彼女は、人生の中で一度は誰しも、魚に話しかけられる経験をすると言っています。そして、「そこから発せられ内なる声には従いなさい。それが例え世間の常識に逆らうとしても」と続けます。魚というのはきっと話しかけてくるものの抽象であり、それは「自分」であったり、「神」であったりするのだと思います。その声を信じてあげること、つまりは自信や信仰になり、生きる力に繋がるのだと思います。

人生は存在自体が目的ではなく、進む道で決まってくる

人生は存在することが目的ではない。ただ存在するためだけに生きている人は人生の目的を見つけてはいない。その人生を歩む過程でその目的が見つかる。スヴェトラーナさんの場合、彼女が進んだ道、つまり翻訳とともに生きること、それが彼女にとって人生の目的だったのだと思います。

一人の人とその民族は異なる

ナチス政権下のヒトラーによるユダヤ人迫害によって、スヴェトラーナさんの友人も殺されてしまいます。そのときの心境を語るとき、「一人の人とその民族は異なる。ヒトラーは、ゲーテやシラー、トーマスマンのようなドイツ人と違っている」と言っていました。文学によって救われた彼女は、ドイツ人のことを心から尊敬しており、そこから大きく外れたヒトラーの存在にショックを受け、そう思うことでドイツという国を信じようとしたのかもしれません。

完全なる翻訳は存在しない

例えば、『私はコップを持つ』という文章はロシア語では表せないらしいです。なぜなら、ドイツ語だと“私”は主語で“コップ”が目的語になるが、ロシア語の場合は“コップ”が主語になり、それが“私”という言葉を支配してしまうからだと言います。そういった文法の問題から完全なる翻訳は存在しないのだそうです。

翻訳は、究極の本質への憧れ

インタビューアーから「あなたにとって翻訳とは?」という質問が投げかけられます。それに対してスヴェトラーナさんは「究極の本質への憧れ」だと答えます。上記のように、翻訳には完全なものは存在しません。だからこそ、彼女は読書という精神体験を通して感じた、そのオリジナルにどうしても近づけたいという気持ちが強いのかもしれません。憧れには際限がないと彼女は言っています。翻訳をしているときは、常にオリジナルに強い憧れを抱きながら、真剣にことばと向き合っていたに違いありません。

まとめ

まだまだ心に残った言葉があります。しかし、かなりの長文になってしまいますので、ここで終わりにしたいと思います(笑)。この映画を観て、より文芸翻訳に関して興味が湧きました。一つの仕事を通して人生を全うしたスヴェトラーナさん、大変素晴らしい人だったと思います。この映画を観て元気をもらえました。DVDが出たら、一言も漏らさずもう一度観たいと思える映画でした。

P.S.

オフィシャルガイドブックと面白そうな本をつい購入してしまいました。

翻訳教育

 

映画『ドストエフスキーと愛に生きる』オフィシャルガイドブック
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magiyama

1992年生まれ。名古屋・京都・東京を転々とし、現在はイギリスに拠点を移しブロガー兼フリーランス翻訳者として試行錯誤する毎日を送っている。ロンドンから生の音楽シーンやカルチャーを届ける他、一生モノのプロダクトを紹介。趣味はマジックとけん玉。

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