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【書籍】ディストピア小説『すばらしき新世界』レビュー
2016/11/03
こんにちは。
Magiyamaです。
最近はSF小説にはまっています。
古典の定番ですが、フィリップ・K・ディックの『電気羊はアンドロイドの夢を見るか』を読み、ジョージ・オーウェルの『1984年』を読み、ディストピア小説の古典『すばらしき新世界』も読んでみました。
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1940年代に出版された『すばらしき新世界』ですが、
その時代に書かれたと思えないほど近未来を巧妙に描写しています。
まず、世界観の設定が面白かったです。
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この小説の世界観について
この物語は、文明化された近未来のロンドンが舞台なのですが、
その世界の社会の制度やモラルや常識、ルールが現代の社会とはほぼ正反対のものです。
例えば...
2.『母親』や『父親』が卑猥で恥ずかしい言葉
3.ひとりの異性を愛することも卑猥、たくさんの異性と関係を持つことが良しとされる
4.孤独になることは良くない
5.精神的ダメージを負ったときはまず薬(ソーマと呼ばれる)で乗り越える
6.古いものは使わず、新しいものを購入することが推奨されている
などなど、変わった社会のルールや価値観がその世界の常識となっています。
特に奇妙な取り組みは、『子どものつくり方』です。
この物語の世界では、子どもは基本的に瓶の中でつくられます。体外受精の一種です。しかも、その子どもの能力や体格、将来の身分は、この瓶のなかで決められます。さらに、睡眠学習と呼ばれる方法で、パブロフ犬のように、上記に挙げた社会の都合の良い価値観を条件反射として刷り込みます。
精神疾患は、ソーマと呼ばれる薬で早めに対処し、歴史や科学など社会の維持を脅かす存在は規制するか、あたかも初めからなかったかのように抹消してしまいます。
このように社会の上層階級によって不安要素はすべて取り除かれ、
治安維持のための管理統制を行うことによって国家の平和が成り立っています。
ディストピア小説『1984年』は、ビックブラザーによる完全なる監視によって、
社会の平和を維持するのに対し、『すばらしき新世界』ではイデオロギーの面から統制を図って平和を保ちます。
戦争がなく平和がないのは良いことですが、どちらも嫌な世界ですね。
心に残ったワード
・幸福な人生を送る秘訣なのだよー自分がやらなければいけないことを好むということが。条件付けの目的はそこにある。逃れられない社会的運命を好きになるよう仕向けることにね。p25
・わけもわからず覚え込んでも何かを学んだとは言えないから p39
・言葉がすごいだけじゃなくて、言葉で創り上げるものもすごくないとだめなんだp103
・あらかじめ期待されていることを書いて、それが激しいなんてことがかりうるのか。言葉というものは、うまく使えばX線のようになれる。なんでも透かしてみることができる。読む人の心を見通すんだ。俺が学生たちに教えているのはそれだ。心を透かして見るような言葉の書き方だ。p104
しかし、いくら書き方が素晴らしくても、題材が良くなければ意味ないと付け加えている。
・僕は僕でいい。情けない僕のままがいい。どんなに明るくなれても、他人になるのは嫌だ。p130
・「僕は情熱とはどういうものか知りたい。強烈な感情を持ちたい」
「 ''個人の想いは社会の重荷''よ」
「社会は少しぐらい重荷を負ってもいいだろ」 p137
・ものをつくり、形を整えていかこと、自分の指が技術と力を獲得していくのを感じることーそれはジョンにすばらしい歓びを与えた。p193
・「ああ、すばらしい新世界」p200
シェイクスピア『テンペスト』からの引用 ジョンの新世界への憧れが高まったときに漏れたことば
・「ああ、もちろん必要ない。でも"卑しい仕事を誇りをもってやってのければ、つまらぬことからりっぱな結果が得られるのだ"僕は卑しい仕事を誇りをもってやりたいんだ。それがわからないのかい」電気掃除機を使えばいいじゃないというレーニナの発言に対するジョンの言葉。p274
こちらもテンペストからの引用
・「美しいものはとりわけ必要がない。美は人を惹きつける。われわれがみんな古いものに惹きつけられるよを望まない。新しいものを好きになってほしい」「でも、新しいものは愚劣で嫌なものばかりです」p316
消費を促すこの社会の価値観。それに対するジョンの疑問。実は、私たちも新しいものを好むよう条件付けされているのではないか。
・「われわれの世界は『オセロー』の世界とは同じではないからだ。鉄なしで自動車がつくれないように、社会的不安なしに悲劇はつくれないんだ」p317
この世界に悲劇が存在しない理由。
・「アルファ(上流階級)として壜から出て、アルファとして条件づけされた人間が、今エプシロンのセミ・モーロン(下流階級)がやっている仕事を強要されたら発狂するー発狂するか、ものを壊しはじめるかのどちらのどちらかだ」p321
一番なるほどなと思った言葉。"高級な代替シャンパンを下等な器に入れることはできない"この比喩も分かりやすい。それぞれに見合った仕事がある。能力のあるものは、見切りのつけた仕事は捨て、さらに高い能力を要する仕事を求めるようになる(いずれ限界はくるのだが)。しかし、全員が能力のある優秀な人物だと、単純作業など能力があまり必要としない仕事をする人がいなくなってしまう。だから、この世界ではあえて下流階級を作るようにしている。
・「われわれの科学研究は料理の手引書に従っているだけと気づくだけの頭は持っていたからね。その手引書には正統派よ料理理論が書いてあって、誰もそれを疑ってらならず、新たなレシピを付け加えるには料理長の許可ぎ必要だ」p325
結果が決まっていることを気づかないよう研究だとして研究者に行わせ、危険となりうるイノベーションの発見を制御させる。
・「僕は不幸になる権利を要求しているんです」p346
・ロンドンでの数週間は怠惰もいいところで、やるべき仕事もなく欲しいものがあればスイッチを押したりハンドルを回したりふるだけで手に入ったが、そんな生活のあとでは技術と忍耐を必要とする手作業をするのが純粋に愉しかった。p355
まとめ
社会の道徳やルールは、どこの誰が作ったかわかりませんが、私たちは生まれてから当たり前のように従い育っていきます。しかし、それたは作った人の基準によって正義と悪が決定されているため、私は本当に『正しいもの』というのはこの世に存在しないと考えています。
私たちが暮らす世界も、実はこの物語のようにある程度作られたものということは否定できないかもしれません。よって自分の意思で選択したものが、実は何か大きな意思によって選択するように仕向けられているといった可能性は多少なりともあるのではないかと思います。
この小説を読んでふとそんなことを考えたりしました。
時々は本当に自分の頭で考えて選択したものなのか自問し、世界を疑ってみるということが大事かもしれませんね。
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magiyama
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