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柳宗悦「民藝四十年」を読んで
先日、スモークブックスさんで柳宗悦「民藝四十年」を購入しました。
完全にジャケ買いでしたが、読んでみて面白かったので紹介します。
こちらは岩波書店から1984年に出版された文庫本ですが、なんと初版(しかも帯付きで状態良し)!
エースホテルに宿泊したのをきっかけに数年前から柚木沙弥郎さんに興味が湧き、「柚木沙弥郎 Tomorrow」を読んだことで今度は「民藝」に興味が湧いてきました。
「民藝」は、柳宗悦によって造られた言葉です。
民衆的工藝、略して民藝。
当時の工芸品といえば、有名な作家が作る華やかな装飾が施された観賞用の作品が主流で、無名の職人が作った日々の生活に使う地味な日用品には誰も目を向けませんでした。
そこに美を見出したのが柳宗悦です。
そういった雑器は下手物とも言われていましたが、柳宗悦が「民藝」と名づけることで新たな価値が生まれました。
柳宗悦が「民藝」を提唱してから40年の間に書かれた原稿を集めて時系列順に編集したのが、こちらの「民藝四十年」という本です。岩波文庫の文庫本として出版されたのは1984年ですが、実はもっと古く1958年に宝文館から出版されています。
つまり、1920~1960年に書かれた昔の内容というわけですが、柳宗悦の言葉には現代にも通ずる色褪せないエッセンスが詰まっています。
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文化と人を切り離さない
「朝鮮の友に贈る書」では、韓国併合によって無理な同化を強いる日本人の横暴さに憂い、必ずしも全ての日本人が敵ではなく、朝鮮のことを想っている味方も日本にいることを伝えています。
民藝のことが書かれているのかなと思いきや、いきなり戦争と平和に関する文章で驚きましたが、柳宗悦は当時誰も見向きもしなかった朝鮮の陶磁器に美を見出し、そこから民藝運動に繋がっていくので全くの無関係ではありません。
“人は生まれながらにして人に恋している”
“人が自然な人情のままに活き得たら、この世はどんなに温かいであろう。この世に真に貴いものは、権力でもなく知識でもない。それは一片の温かい人情であるといつも思う。”
本来は、人を愛することが人間にとって自然であるはずが、金や武力が世の中を支えているという不自然な状態に対して、そんな人情が踏み躙られる世界であって良いのかということが書かれています。
柳宗悦の愛が詰まっていますね。
このようなことを書いて「読売新聞」に、当時の日本社会のムードにおいて勇気のいることだったと思うので、純粋に凄いなと思います。
文化やモノを愛しているのに、なぜそれを作った人も愛さないのか?ということが書かれているのですが、これは現代でも通ずることだと本当に思います。
If people loved Asian people as much as they love bubble tea, anime, mochi, sushi, matcha etc... Imagine profiting/enjoying things that come from a culture and then attacking/diminishing the ethnic group that created it.
— NaomiOsaka大坂なおみ (@naomiosaka) March 27, 2021
コロナ禍で世界的にアジア系に対するヘイトクライムが多くなったときに、大阪なおみは「食べ物や文化が好きなら、なんでそれを作った人のことを攻撃したり排除したりすることなんてできるの?」とツイートして話題になりましたが、柳宗悦然り本当にそのとおりだと思います。文化と人はセットなのに、それをすっかり忘れて文化だけ都合よく享受するレイシストは本当に多いものです…
物を持ちすぎじゃないか?
現代の我々も耳が痛い言葉かもしれませんが、柳宗悦も「そんなに器ばかり集めてどうすんの?」と言われたそうです。
それに対する弁明(?)を「蒐集の弁」で書いてます。実は、購入の決め手はこの章。たまたま開いて立ち読みして面白いなと思ったので購入しました。
“少し言葉は変だが、私が物を買うのは、一生に「今この一個」をのみ買っているという行為の連続に過ぎないのである。だから横に買っているのではなく、いつも縦に買っているのだとでもいおうか”
これ、面白い考えじゃないですかね?「今この瞬間」に集中するマインドフルネスみたいな感じ。
「横に買う」とは、単純にとりあえず数を増やすための買い物。一方、縦の買い物は、過去や未来の影響を受けず、それらから解放された「現在」でのみ買っている行為とのこと。
“買うとか持つとかいうことは私には、いつも「今」「この一つ」という境地での出来事に過ぎない”
ちょっと分かりづらいかもしれませんが、個人的に「すでに持っている物のことは考えずに、まっさらの状態でそれ自体が素晴らしいから買う」ことだと解釈しています。
「実際に物が増えているから、柳、それ詭弁じゃね?」ということに対してこのように答えています。
“実は物を持つとは、全一に持つという意味がなければならぬ。その全一とは数多い物の中の一つではなく、一つそれ自身の一つなのだ”
“真に美しいものは、ただ色々あるものの一つではなく、左右のない現下の一つなのだ。それは数の世界にあるよりも、数なき一つなのだ。仮にそれを多数の中の一個としてより持たないなら、美しさを見届けての持ち方とはいえぬ。私は量の世界で買っているのではないのである”
“よく世間には「茶碗を100個集める」と力んでいる蒐集家があるが、私には愚かに見えてならぬ。数で集めて何になるのかと思う。100個に興味があって、一個なら興味がないのである。「この一個こそ」という持ち方が基礎にならぬと、たとえ100個持っても、実は一物も持たないのと等しかろう。私はそういう買い方、持ち方はしたくない。私が物を買うのは、いつも始めての想いで買うのである。一々が初恋なのだとでもいおうか”
こんなこと言われたら「お、おう」とこれ以上は何も言えないですね。柳先生、さすがです。“初恋“の例えは、確かに分かりやすいですね。
「柳、君はマテリアリズム(唯物主義)だな」という批判に対してはこのように弁明しています。
“それは唯心主義の行き過ぎで、「心」と「物」とをそんなに裂いて考えるのはおかしい”
“物の中にも心を見ぬのは、物を見る眼の衰えを語るに過ぎない。唯物主義に陥ると、とかくそうなる”
“私はむしろ心の具像としての物を大切に見たい。物に心が現れぬようなら、弱い心、偏った心の所為に過ぎぬ”
これはもう「参りました」と言うしかないですね。
直感で買う(知識で買わない)
“「知る人」の方が多く「見える人」の方が案外少ない”
“知識で計ると、知識で計れる以内のことより見えないものだ”
“有名だから良いと思って見たり、評判に引きずられて見たり、主義主張から見たり、自分の小さな経験を基にして見たり、なかなか純には見ぬ”
“私はある名門の人で立派な品をたくさん所持している人を知っているが、その人は有名になっているものでなくば買わないのだ。だからその蒐集には良い品があるのは必定だが、しかし自身で見届けての上ではない。むしろ評判の高くないようなものは買えないのだ。買う眼がないのだ”
“物の良し悪しもさることながら、買い方、持ち方で、物は生きたり死んだりする”
「〇〇が作ったから。〇〇で有名だから。」と知識が前提にある買い物では、いつになっても物を見るが養われないとのこと。
“知識を持つことそれ自身は一向に差し支えないが、それの奴隷になると、物は見えなくなる。見て後に知る習慣をつけるのが肝心で、それが前後すると、美しさは隠されてしまう”
柳先生曰く、「先にフィーリングで買ってから、後でググる買い方」がおすすめとのこと。そのほうが審美眼が養われそうですね。
不断遣いの器
“用いずは器は美しくならない。器は用いられて美しく、美しくなるが故に人は更にそれを用いる。人と器と、そこには主従の契りがある。器は仕えることによって美を増し、主は使うことによって愛を増すのである”
“用いる鍵は錆びないではないか”
冒頭でも少し触れましたが、柳宗悦は派手な装飾の実用にかける器よりも、地味だけど普段の生活に溶け込んだ雑器を愛しました。“不断遣いの器”と表現していましたが、普段ではなく不断とするところが面白いなと思いました。その器を毎日絶え間なく使っている光景が目に浮かびます。
柳宗悦曰く、器は自分にとっての伴侶なので安ければ良いわけではなく、特に下記のような器が良いとのことです。
・普段使い(不断遣い)のもの
・買いやすい値段のもの
・生活に即した物
・質素だけど粗悪ではないもの
柳宗悦は、特に実用性を重視しています。
“実用を離れるならば、それは工藝ではなく美術である”
“美術は理想に迫れば迫るほど美しく、工藝は現実に交われば交わるほど美しい”
美術と工芸の違い、これ以上ない程わかりやすい表現だと思います。
ぜひ読んで見て
岩波文庫の昔の本なので難しそうに見えますが、買い物や物の所有の話など、現代人に馴染みのあるテーマが含まれていて楽しく読めます。
ぜひ、古本屋で見つけたら手に取って読んでみてください。
magiyama
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